コラム1ではオイルフィニッシュの原理や仕組み、その目的について
コラム2では塗料という工業製品について実際に使用している塗料を例に紹介させていただきました。
そして今回はコラム企画第一弾であるこの「オイルフィニッシュについて」の(とりあえず)最終回
オイルフィニッシュを選ぶその動機についてをメインにお話ししていきます。
▶デンマーク家具とオイル仕上げ
デンマーク家具デザインの特徴は何ですかと訊かれることが度々あり、一言で回答することはこれ結構難しいのですが、見た目のデザインや構造的な特徴、その基本にあるデザイン思考についてなど、デンマーク家具らしい特徴をいくつかは挙げることが出来る。その中に「木の表情も意匠の一つと捉えた」その表現手法も、挙げるべき特徴の一つであると考えている。
その一方でオイル仕上げとは何かを調べてみると、オイル仕上げの原理や仕組みの説明の横に必ず「戦後のデンマークで発達した塗装方法である」といったような記載が並んでいる。例えば
「もともとオイルフィニッシュはデンマークでチーク材を素材とした家具に始められた仕上げで、、、」
(『改訂版 木材の塗装 木材塗装研究会 編:海青社』P68より)
「戦後、デンマークで開発された塗装法に、オイルフィニッシュという技法がある・・・デンマークでは主にチーク材の家具に利用されたことから、この塗料をチークオイルと称した。」
(『設計の基本とディテール 新・木のデザイン図鑑:エクスナレッジ』P402 より)
つまりオイルフィニッシュ ・ デンマーク・そしてチーク材というこの3つのワードの組み合わせにこそ、デンマーク家具を語る上での大事なポイントがあり、そしてオイルフィニッシュにこだわる理由があるのかもしれません。
▶オイルフィニッシュの魅力-①木の質感を引き出す仕上げ
オイルフィニッシュは塗料を木材内部に浸透させて塗膜は造らない、またはごく薄い膜を造るだけでしっとりとした深みのある美しい木の表情を表現する。
油という小さな分子だからこそ素地に深く浸透し濡れ色になり、材色を更に濃く、美しい杢目を表現することが出来る。
オイルフィニッシュだからこそ、目で見て手に触れて、その質感を愛でることが出来るのであるが
ではなぜデンマーク家具はそこまでその木の「質感」にこだわったのであろうか?
という問いがあったとするとその解答として
冬と夜が長いために家に居る時間が長い北欧の地域では、家の中でも気持ちよく自然を感じられることが大切であったから、とか
なんかそんな風に言われることが結構多くて、実際それで説明が出来るのかもしれないけれど、、、
、、、と考えてみる。
で、ここからはちょっと私の妄想ですので話半分で聞いてください。
1960年代頃からチーク材の家具がデンマーク家具では主流となります。そしてそのデザインは大袈裟でなく世界を魅了しました。世界中を魅了したその要因は、個々のデザインの魅力にあることに間違いはない。
しかし、それを可能にした要因の一つとして、合板の技術が普及したということも大きく影響していたのではないだろうか。
妄想を膨らましてみよう。
まずチーク材と言えば銘木に数えられるほどの高級材である。
現在流通しているチーク材は主にインドネシア産が多いようですが、その当時はタイ産のチーク材が最も品質が良かったとか、ミャンマー産のチークが貴重であったとか、色々聞きます。が、とにかく今も昔も変わらず貴重な材であった。そんな貴重な材で造った家具が、どうして世界中へと普及出来たのでしょう。
現実的な話。それはある程度の量産が可能になったから。それは合板の技術を活用したから。
と考えてみたらどうか。
合板にチーク材の薄い化粧板を貼り合わせることで、少ない材料でもより多くの製品を造ることが可能となった。そのために、銘木と称される希少な材を使用した家具でも、それなりの量を流通することが出来た。
しかし、ここで課題に突き当たる。
それまで一般的であった無垢材の家具と比べてしまうと合板の家具はその「質感」で見劣りしてしまう。
どうにかしてその「質感」を高めることは出来ないであろうか。
そしてそんな課題を解決したのがこのオイルフィニッシュであったのではないだろうか。
オイルフィニッシュは浸透性の塗料であるため、合板に使用する場合でも最低表面の厚み0.6㎜以上が必要になってくる。しかし言い換えれば化粧板に0.6㎜の厚みさえあれば、オイルフィニッシュを施工して「質感」を高めることが出来る。
繰り返すがもちろん個々のデザインの魅力あってこそデンマーク家具デザインが普及したのであろうが、しかしその魅力の中に「木の表情を意匠として捉える」嗜好性や文化の礎があったからこそ、木の質感を高めるための問題解決意識が育まれたのではないだろうか。
そのようにして戦後のデンマークデザインの隆盛とともにオイルフィニッシュの技法が発達していった。というのは私の妄想なのですが、これ結構言い得ているのではないかと思っていたりして。
”デンマークのデザインは伝統的に、その控えめで上品な魅力で知られており、素材と機能性、そしてデザインが一つとなって、均整と調和のとれた極めて優れた感性を形作っている。デンマークデザインの最も優れたものは、質感の効果と素材への細やかな配慮に対する類まれな精通を体現したものであり、そのいずれもがデザインの正確さと飾り気のなさによってさらに高められている。”
(『別冊太陽:デンマーク家具 / p4 デンマーク・デザイン ー発展するデザインの伝統』より抜粋)
▶オイルフィニッシュの魅力-②日常のお手入れ
オイル仕上げを施工した家具の魅力に、使い込むほどに風合いを増していくことと、再塗装(メンテナンス)が容易であることが挙げられる。
半世紀前と比べた現代において、テクノロジーはずっとずっと進化を遂げた。
身の回りのものごとはどんどん便利になり、私たちの暮らしの廻りはどんどんスマートになっていく。
忙しい日々の中でわざわざ家具の手入れに時間を割かずとも、気持ちよく日常を過ごそうと思えば幾らでも選択肢はあるだろう。
全くそれで良いのかもしれないが、しかし本当にそれで良いのだろうかと考えてしまう。
何かを得るということは、何かを失うということなのかもしれない。
全てを手に入れることは出来ないから
これから先歩んでいく未来に、私たちは何を選ぶべきかを思慮深く考えていくことが大切である。
おっさんの世迷い事ですが、、、
そんな時代だからこそ、日々の暮らしの中に敢えて手間を掛けるという行為を今一度経験していくということは、とても有意義な事なのではないだろうか。
要か不要かは問わず、その行為によって、体験を通じて、ポジティブな発見に繋がるかもしれません。
話は少し変わるが、こんな風な身の回りのものときちんと関わる文化というか生活者たちが日々育んでいくことで生まれる暮らしの土壌は、デンマークのデザイン創造プロセスにおいてもとても重要であったように思います。
それは彼らのデザインの対象が常に生活者であったこと、そしてその対象であった生活者自身が日々思慮深く日常や身の回りのデザインと向き合っていたということに由来する。
「あまりに多くのものを持つ者はほとんどおらず、そしてあまりにわずかなものしか持たない者はもっと少ない」
とはデンマークの近代思想の礎となった、詩人であり牧師であり思想家でもあるグルントヴィによるデンマークという国を評した言葉であるが
しっかりと良いものを選び、身の回りのものは自分たちの責任できちんと手入れをしながら必要なものを必要な人が必要な分だけ使い続けて共有していくという文化、価値観、そして生活者たちが受け継いできたその土壌があったからこそ、デンマークのデザインがその歴史の中で磨き上げられていった。
そしてそこにオイルフィニッシュが備えていたこの日常のメンテナンスが容易であるという特性、ゆえに手を掛けることで愛着が育ち、長く使い続けていくことが出来るという特性が、なによりも生活者たちに広く受け入れられるために必要な条件であったのかもしれません。
▶再現するということ
随分と話が長くなってしまったのでとりあえずこの辺りに止めます。
私にとって、デンマークのヴィンテージ家具を修復・再生するということは、形あるものを形あるままに再生するというだけではなくて、そこに潜む精神についてを理解することであったりその思考に学ぶこと、そしてそこで得た学びを共有していきたいという想いをもって臨んでいます。
そのためにも、オイルフィニッシュにこだわることで、上の①②で言及したような彼らのデザイン思考プロセスやものとの向き合い方、大きく言ってしまうと社会や文化の在り方についてを学び、再現または想像していくための重要な作業であると考えているのです。
▶まとめ
ということでコラム第一弾「オイルフィニッシュについて」3回に分けてお話しさせて頂きました。
3回に分けた理由は、一つ一つの話を短くまとめることを願ったのですが、実際には書けば書くほど書きたくなる。長くなってしまいましたが読んで頂きありがとうございました。
振り返って総括をすると
コラム1ではオイルフィニッシュについての概略
コラム2では実際に使用している塗料を例にすることで、その効果や役割をより具体的にイメージ出来るようにお話しをしました。
そしてコラム3ではオイルフィニッシュを選ぶ私なりの動機について、そして私が感じていることから妄想まで話しが及んでしまいましたが、如何でしたでしょうか。
本コラム企画では、素材や構造、また今回のような仕上げ方法などを皆様と共有することで製品やその背景にある精神性や思考、思想、何かそんな様々なことについての興味や関心を深堀していければ良いなと考えています。
またトピックがまとまりましたら急に話し始めますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします。
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